4. NGMサービスと日欧経営文化の相違


NGMサービスの特色の第一は、人材・人脈の高度な発掘能力です。
第二の特色は、日欧経営文化の相違から生ずる問題の解明、解決策の提案です。 以下に単純化・抽象化した典型的な問題例をご紹介します。 なお、経営文化は多様で、相矛盾する要素も数多くあり、ケース・バイ・ケースの 対処が要求されます。


4-1.人事マネジャー
 欧州の従業員数百人以下の企業(在欧日本企業は殆どこの規模です)では、 人事マネジャーは人事事務処理屋とくに社会保険事務処理屋です。社長の適切な業務割付と権限委譲、これに対応した採用と解雇、および、 ムチとアメに拠りうまく行く筈、というのが基本的な考えです。    職種・職歴・資格・教育・それらのレヴェルは、日本におけるよりはるかに 明確に標準化・区分化して意識され、これらを超えた人事異動・採用・ 転職はありません。 法曹資格なき法学士とマクロ経済学士を主とする大集団、 すなはち日本における「事務屋」と、そのジョブロテーションは、欧州製造業には 存在しません。 人事マネジャーは日本的な人事管理、すなわち、従業員の モチヴェーションの要としてイニシャティヴを発揮することはありません。 日本では人事部長はエリートであり取締役候補ですが、欧州では補助部門長 に留まります。 日本的な人事マネジャーは大企業にのみ存在することがあ ります。(なお在欧日本企業の多くは日本においては東証一部上場大企業です。)      人事マネジャーの能力や個性をみて、異なる二つの人事マネジャーコンセプト 間の適切な妥協点・文化の折中点を見出さなければなりません。


4-2. 新卒者の就職
 新卒者の横並び一括定期採用は日本の常識ですが、これは世界の非常識です。   欧州では、新卒就職時から、ポジション毎の採用であり職種・学業成績・需給関係 により待遇・将来性に大きな格差があります。カルティエ・ラタンのように学生 運動では人間の本源的欲求・エロスの開放が叫ばれ、欧州の固定化された社会から の脱却が抽象的・総論的に論じられていますが、現実的・具体的な行動である就職 活動に当たっては、より良い職務・待遇を追求はしても、学業内容成績御破算の横 並び待遇が民主的であり、かつ全体のモラルアプになるとは考えていません。能力 は新卒就職時から多種多様かつ格差があり、その適材適所の配置が最良と考えています。


4-3. セールスマン
 日本企業に多い産業用品のセールスマンは、30才の新学卒者の初任年俸がEUR 25,000〜35、000です。 優秀な者は40才前に倍増、10年後にEUR 100,000前後になれば大成功です。満足して停年まで勤めます。ジョブロテ ーションはありません。 管理者・経営者を目指してピラミッドを登っていく層と は新卒就職時および30代に分化済みだからです。セールスサポートグループの積 算担当者、特殊仕様担当技術者、部品・クレーム担当者、受発注・出荷管理担当者 などは、セールスマンの聖域である顧客訪問から外されています。したがって、2 0年の歴史のある業界ではセールスマンは50才前後、30年の歴史のある業界で は若返って30才代が主流ということが起こったりします。


4−4. 採用 
セールスマン・サービスエンジニアのスカウトにあたって日本企業では社内民主的に 仕様を決め、しばしば“新学卒プラス数年の経験者”となります。 一応仕事をこな せ新人教育不要で、安く、他者のステイタスを脅かさないからです。 しかしこの年 代のセールスマンがいない業界もあります。 いる場合でも採用は成功しません。 転職すれば、30代半ばまでの大幅昇給が期待される社内評価を失い、昇給は少なく、 ステイタスは仲間の最低クラスであり、さらに試用期間のリスクが加わるからです。  すなわち転職のメリットがないからです。採用も文化を含めたgive and takeです。

 従業員数が数百名ぐらいまでは、採用は社長の専管事項とすべきです。 企業の好業績は社長の得点です。すなはち企業の目的と社長の目的は一致しています。 No.2以下の第一の目的は社内における自己のステイタスの維持・向上、勢力の拡大です。 セールスマンの採用に当たって、社長がNo.2の中山氏の意見を聞けば、 「優秀な人なら20代でもいいんじゃないですか」となり、担当のミニ山氏の 意見を聞けば、「新高卒でも優秀な人ならできるんじゃないですか」となったりします。 コンセンサスをとれば新卒プラスアルファとなってしまいます。 経営にとっては最大多数の最大幸福は合成の誤謬となることがあります。


4−5. 昇給・昇格
 西欧人は「40才までが勝負」と言います。新卒就職時からあった格差は40代前半 には大企業社長から平セールスマンまで差が開き、これ以後の逆転はほとんどありません。   40才前後で優秀な西欧人と日本人とのステイタスと給与の格差は最大となります。 日本の大部分の大企業では本格的な選別は40才を超えてから始まるからです 。 これはまた在欧日本企業が優秀な西欧人をキープ出来ず、また採用をため らう理由です。 さらに凡庸な西欧人が社内に滞留し、欧州にはない年功昇給 により50才では優秀レベル、停年退職時にはエリートレベルの給与を得たり する理由です。 日本企業の多くは販売戦略よりも製品品質の優秀性で成功し 、日本本社では「うちは物がいいから誰が売っても売れるんだ」などと言って いることと裏腹の関係にあります。 優れた品質が文化の差を圧倒しています 。(近年は日本のクールな大衆文化も世界のあこがれとなりつつあります。)

NGMの顧客である在欧日本企業の日本人社長が帰国後、在欧中の業績により昇格し、私 共NGMがなお一層引き立てられることを常に願っていますが、昇格が期待程でなく がっかりすることが少なからず起こっています。


4−6. 職務権限
 日本人は部下の欧州人マネジャーに様々な、矛盾する情報をも流し、ときには トップ・マネジメント・レヴェルの問題についても意見を求め、共に考えるこ とを求めます。 これは日本では、教育であり、潜在能力を発揮させ、発見す るチャンスであり、モチヴェーションの手段でもあります。 階層意識の下で 上司の命令を待つ姿勢の欧州人マネジャーは、命令と参考情報の判別ができず 、これを日本人上司の優柔不断さ無能さを示すものとして、自己の職務権限の 枠内から内心冷ややかに眺めていることがあります。

これに反し、上司から事前に相談はなく突然命令が与えられても、その正否は 上司の責任、自分はみずからの権限内で喜び勇んで“自主独立”に行動します。   しかし、職務権限を完全独立に作ることは困難です。周囲との調整を怠り、 欧州の常識・個人のセンスでこれを補った場合、日本側からみて“独走” “突っ走っている”ことになります。 共同体意識よりも個別の職務権限意 識の方が日本人よりはるかに優先しているからです。


4−7. 警告・解雇
 日本企業では、従業員に口頭での警告を繰り返しながら警告書を手渡さないこ とがあります。警告書は解雇の意思表明と重く考えるからです。警告書は、第 一に、経営側の改善要望事項を両者が確認して、従業員の自己改善による雇用の 延長を目指す思いやりであり、労働側が歓迎するものです。第二に、三度の警告 書にもかかわらず自己改善がなされなかった場合、解雇を正当化する証拠となる ものです。口頭による警告を繰り返せば、その都度最終的には従業員の主張を認 めたという実績が積み重なるのみです。 矯正も解雇もますますむずかしくなります。


4−8. 個人主義と集団主義−1
 日本人なら誰でも中高校生の頃、欧州文学の傑作、シェイクスピアの“ヴェニス の商人”を読み、何かしっくりこないものを感じた経験があるでしょう。 大岡 裁きの胸のすくような爽やかさはまったくありません。 契約書に書いてあるか らといって、法廷でナイフを振りかざし胸の肉1ポンドを切り取ろうとするのが 杓子定規なら、胸の肉を切り取るに当たって血を一滴でも流せば財産没収という のもまたあまりにも小理屈だからです。 ここでは契約書の字句の解釈のみが問 題であり、成文化されていない常識・社会通念の存在は前提にされていません。   個人主義の極致がここにみられます。

正義のシンボルのように、するどいかけ声とともに悪に向かって銭を投げつける 桜吹雪の遠山の金さんは、正邪の厳しい決着よりも、日本人に普遍的な画面から 溢れんばかりの人情味がメインテーマです。 これにドップリつかって幸せをか みしめる日本人は、“ヴェニスの商人”の字句の解釈の行方に手に汗を握る西欧 人とは、なんという大きな相違でしょうか。


4−9. 個人主義と集団主義―2
 西欧人を採用する日本企業は、企業の目的・社長の構想に意気投合することを求 めますが、相手側は契約条項が自己の目的・利益に沿うかどうかで決めます。  日露戦争の際、欧州にあり革命グループに武器を送込むなどロシアの後方撹乱に 活躍した明石大佐「欧州人を動かすには、大義名分を語り合い意気投合するよ りも、相手が納得する対価を支払って個別の任務遂行契約を結んで任せた方が効 率的だ」契約社会・欧州における欧州人の契約観念の強さに驚いています。 責任権限を明確にして権限委譲し、自分は目標管理ときに執行管理に徹して明石 大佐はあのような偉業を成し遂げました。


4−10. 個人主義と集団主義―3
 大型・高額・ハイテクなどではない消費財などの場合、セールスマンは顧客を自 分のものと考え、顧客訪問から他者すなわち上司や営業サポートグループメンバ ーなどを極力排除して、業績の横取りを防止している企業ないし業界があります 。 中小企業ではオーナー社長に直結し、自主独立の気概と誇りを持った社内独 立エージェントのようにして停年退職まで勤務します。会社側もこのシステムを 利用し乗っています。 営業管理部門はサポート役であるト考え、セールスマン は営業管理部長になりたいなどとは考えていません。 大企業では営業管理部長 はエリートが若いうちに通過するポストです。

 日本では顧客は会社のものと考え、主担当者のほか上司・部下も顧客訪問をし、 業績は年功配分して、年功制を維持してきました。 チームワークと協調性が強 調され、このシステムへの反抗を防止してきました。

在欧日本企業では日本人社長も営業担当日本人もプレーイングマネジャーとして 頻繁に顧客訪問を行い、西洋人セールスマンの誇りとモラールを傷つけているこ とがあります。 顧客側の購買担当者もセールスマンと同様な心情にあり、お互 いに終身共同体意識を持っています。 ここに割り込む日本人駐在員は、いずれ 解約シャットアウトされる可能性大です。 「創業者は商品サンプルを担いで販 路開拓に歩き回った」との訓話・神話を持つ日本企業、または、「足で稼げ」と 発破をかける在日本の大上司を持つ在欧日本企業は少なくありません。 

西洋人にとって命令の「自主独立な遂行」は秘書にいたるまで最重要関心事です。  また、階層意識・職種意識が企業への帰属意識を上回っていることがあります。


4−11.個人主義と集団主義―4
 欧州には「社員」に相当する言葉はありません。日本企業はその境界が社外に も広がっている運命共同体です。 職業欄に「会社員」と記入することには、大企 業の社員にとっては永続的な運命共同体の忠良なメンバーとしての自負と誇りが ありました。 社長も社員総代でした。 これを欧米の子会社、とくに工場に移 植することに成功している日本企業もあります。

欧州では第一の意識は「雇用者」と「被雇用者」です。個人の大資本家、名実伴う中 堅企業のオーナー社長が大勢います。低率の相続税はこれを永続的にしています。 職業欄に「被雇用者」と書き込むには、いささかの反発心と劣等感を伴います。 マルクスがクローズアップされる瞬間です。 NGMオーナー社長としての私は 「丸の内」では軽視されますが、西洋では羨ましがられることが少なくない理 由です。

ちなみに、資本と企業がなく、国全体が一つのピラミッド組織であった東欧共産 国では、ステイタスの基準は「部下の数」でした。「倒産による退場・退職に よる転進」がない組織間・派閥間・個人間の闘争は、しばしば相手を肉体的に破 滅させるまで止みませんでした。市場における競争に注力することなくピラミ ッドを上がってきた年配のエリートには組織内闘争の達人が少なくありません。  合弁事業などの際注意が肝要です。